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コラム:婚姻費用分担請求の諸問題

2023.12.27
1 はじめに

別居した妻は、夫に対し、夫婦の相互協力扶助義務(民法752条)に基づき、婚姻費用の分担を請求することができます。
ところで、婚姻費用の額を計算するにあたっては、権利者(妻)や義務者(夫)の収入額を確定しなければいけませんが、妻が専業主婦の場合、あるいは夫が自営業の場合は難しい問題が生じます。
また、別居後も、夫の銀行口座から妻の生活費などの引落しがあった場合、婚姻費用の算定にあたり清算する必要が出てきますが、どこまで清算するべきかという問題が生じます。
さらに、婚姻費用の審判が出たが、義務者側においてその金額に不服がある場合、抗告を検討することになるところ、抗告審では原審よりも不利な決定がなされるのかが問題となります。以上、これらの諸問題について、順に説明していきます。

 

2 専業主婦の収入について
1 はじめに

例えば、専業主婦の妻が3歳の子を連れて別居した場合、妻は夫に対し婚姻費用分担請求をすることができます。このとき、権利者である妻、義務者である夫の各収入額を算定表にあてはめることにより、婚姻費用の金額を算出することになります。

ここで、夫が「たしかに妻はこれまで無収入であったが、外に出て働くことができるのであるから、妻は収入0ではなく、女性労働者の平均収入があることを前提に婚姻費用の金額を算定するべきである。」と主張したとします。このような主張は認められるでしょうか。

 

2 子の年齢によること

たとえば未成年の子が1歳の場合、妻は日中も子の養育をしなければならず、外に働きにでることはできないので、収入0円とするのが妥当といえます。他方、未成年の子が10歳であれば、妻は外に働きに出ることは特段問題なくできるので、収入0円とすることは妥当ではありません。

したがって、一般論として、権利者がある程度大きくなった子を養育している場合については、賃金センサスの短期労働者、パート労働者の平均年収相当額として100~120万円程度の収入が認定されることがあります。

では、「ある程度大きくなった」とはどの程度の年齢を指すのかが問題となります。この点については、松本哲泓裁判官によれば、3歳程度までは無収入とするべきとされています(「婚姻費用分担事件の審理―手続と裁判例の検討」『家庭裁判所月報』第62巻第11号)。

 

3 平均賃金

上述のとおり、3歳程度を超える子の場合、権利者は、婚姻費用の算定に際し、賃金センサスの短期労働者、パート労働者の平均年収相当額を受領しているとみなされます。では、それを超えて、女性労働者の平均賃金を収入とするべきであるという主張は認められるでしょうか。

この点について、そもそも、これまで専業主婦で無職の女性がすぐに平均賃金を稼ぐことは困難です。もっとも、例外的に、権利者が有資格者であり、専業主婦になる前は女性平均賃金を稼いでいたような場合、権利者の収入を女性労働者の平均賃金とすることは合理性があるといえそうです。

 

3 自営業者の収入
1 はじめに

別居中の妻が夫に対し婚姻費用分担請求をしたとします。これに対し個人事業主の夫は、確定申告書を提出し、1年間の所得は100万円なのでこれを基準に婚姻費用の額を算出するべきであると主張しました。他方、妻は、夫は自宅の賃料として月15万円を払っているので、1年間の所得が100万円を超えているはずであると考えています。
このように、義務者が自営業者の場合、収入はどのように計算するべきでしょうか。

 

2 考え方

自営業者の収入は、確定申告書の所得額から社会保険料を控除して、専従者給与、青色申告特別控除を加算した額をベースに算定します。

もっとも、以上のとおり計算した収入額が実態を反映していない場合もあります。この場合、権利者は、同居時の生活用口座の写しを提出し、当時の支出状況からすれば、現在の所得はこの程度になるはずであると主張していくことになります。

 

4 婚姻費用の清算
1 はじめに

別居中の妻が夫に対し婚姻費用分担請求をしたとします。これに対し夫は、「私の銀行口座から、妻が住んでいる自宅の水道光熱費、インターネットの接続料、固定電話の代金、妻が使用している携帯電話利用料が引き落とされています。婚姻費用の額の計算するにあたってはこれらの支払いを考慮するべきではないですか。」と主張したとします。これらの主張は認められるでしょうか。

 

2 考え方

当該支払いが義務者の資産形成につながる場合は婚姻費用の既払金としては扱われません。したがって、先の例では、いずれの支払いも、夫の資産形成につながらず、もっぱら妻の生活のため支払いなので、婚姻費用の既払金として扱われるのが一般的です。

他方で、夫名義で契約している子どもの学資保険の保険料、妻が住んでいる夫名義の居宅の固定資産税、妻が使用中の夫名義の自動車のローンの各支払いは、夫の資産形成につながるので、婚姻費用の既払金としては扱われないとされています。

 

5 婚姻費用分担請求と抗告審
1 はじめに

審判で月10万円の婚姻費用を支払うことになったが、審判に納得がいかないので抗告するとします。この場合、抗告審では、月10万円を超える婚姻費用の支払いを命じられることはあるのでしょうか。

 

2 考え方

婚姻費用の審判があった場合、不服のある義務者は、審判を受け取った日から2週間以内に、高等裁判所に即時抗告できます。
ところで、民事事件では「不利益変更禁止の原則」(民事訴訟法304条)が働きます。そのため控訴審の判決は一審よりも不利の内容になることはありません。

ところが、家事事件手続法は民事訴訟法304条を準用していません。そのため、婚姻費用の抗告審には不利益変更禁止の原則の適用がありません。したがって、義務者が抗告した場合、抗告審は原審の金額(例:月額10万円)よりも高い金額(例:月額12万円)とする可能性があるので、注意が必要です。

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