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コラム:土地建物の無償使用と特別受益

2024.01.12
1 はじめに

相続人の一人が、被相続人の生前、被相続人名義の土地を無償で借りてアパートを建てるなどして使用していた場合、あるいは被相続人名義の建物を使用していた場合について、当該土地または建物について使用賃借権の贈与を受けており、特別受益(民法903条1項)にあたるかが問題となります。

以下、土地と建物に分けて説明していきます。

 

2 土地
1 実務

相続人が土地の使用借権を得たことは生計の資本としての贈与といえるとされています。
特別受益額は更地価格の1~3割程度とされることが多いと思われます。

 

2 東京地判平成15年11月17日

遺留分侵害額算定にあたっては、遺留分権利者の遺留分額から「遺留分権利者が受けた・・・第九百三条第一項に規定する贈与の価額」を控除することになります(民法1046条2項1号)。そこで、遺留分権利者が、被相続人から土地の使用賃借権の贈与を受けたといえるのか、いえるとしてその価格はいくらになるのかが問題となりました。

判旨は以下のとおりです。

①使用賃貸借の成立
「本件土地上には原告が所有する本件アパートが存在し、太郎は原告に対し本件土地を無償で使用することを認めているから、太郎と原告との間には、本件土地につき、本件アパートの所有を目的とする使用貸借契約が成立していると認めるのが相当である。」

②評価額
「・・鑑定の結果によれば、不動産鑑定士若林眞は、・・1935万円をもって本件土地の使用貸借権価格としているが、その算出経過には不自然、不合理な点は認められない。」

③特別受益に該当すること
「太郎は、甲野商店の経営が思わしくないため、原告の生活の援助のために本件土地を原告のアパート経営のために使わせようとしていたこと、・・本件土地の使用貸借権は、相続開始時において2000万近い価値があり、さらに本件土地の新規賃料は、鑑定の結果によれば相続開始時点で月額33万8000円と高額であることからすれば、太郎と原告との間の本件土地の使用貸借契約の締結(使用貸借権の贈与)は、まさに原告の生計の資本の贈与であるといえ、特別受益(民法903条1項)に当たるというべきである。」

 

3 東京家裁昭和49年3月25日

裁判所は、土地の使用貸借は負担付であるとし、最終的には持戻し免除の意思表示を認めました。

「相手方が昭和四二年に「相手方家屋」建築につき被相続人の承諾を得たのは、「旧家屋」を取り毀して建て直す趣旨であり、建直し後の新家屋は相手方の所有となるけれども、相手方が父たる被相続人、母扶美子、弟秀治と右家屋において同居し、長男としてこれら家族の面倒を見るということが前提になつているのであつて、特に「旧家屋」のうち昭和二八年に増築された二階建部分をも取毀すについては、新家屋のうち、これに相当する部分を被相続人の所有と同視し、その使用収益を被相続人に委ねることの黙示的合意があつたと推認される。・・そのようなことの代償として、被相続人は遺産たる土地を「相手方家屋」の敷地として無償使用することを許諾したものであるから、右土地使用の権原は一種の負担付使用貸借上の権利に基づくものであり、その負担の関係は被相続人の死亡による相続開始後も母扶美子、弟秀治が生存し、その必要の存するかぎり継続する・・。」

「・・右土地については現実に「相手方家屋」が建築されている以上、建付地として標準価格より一○パーセント減価されたものとみる前記鑑定の評価は相当であり、この減価分は特別受益に準ずることになるが、前段認定の事実関係のもとにおいては、被相続人は民法九〇三条三項にいう持戻義務免除の意思を表示したものというべく、もちろんその意思表示はその余の相続人の遺留分に関する規定に反するものではないから有効である。」

 

3 建物
1 同居していた場合

建物の使用貸借権の贈与は特別受益に該当しないとされています。被相続人と同居していた相続人は占有補助者にすぎず、独立の占有が認められない、などの理由によります。

大阪家裁平成6年11月2日審判は、被相続人と同居していた相続人が家賃の支払いを免れたことにより賃料相当額の特別受益があったとか否かが問題となりました。事以下のとおり特別受益を認めていません。

「伸子は、同目録1(7)の建物に無償で居住している。右居住のうち、被相続人と同居していた期間は、単なる占有補助者に過ぎず、独立の占有権原に基づくものと認められない。この間伸子には家賃の支払いを免れた利益はあるが、被相続人の財産には何らの減少もなく、遺産の前渡しという性格がないので、特別受益には当たらない。」

 

2 同居していなかった場合

1と同様に、建物の使用貸借権の贈与は特別受益に該当しないとされています。「家賃の支払いを免れた利益はあるが、被相続人の財産には何らの減少もなく、遺産の前渡しという性格がない」ためです(上記大阪家裁平成6年11月2日審判参照)。

その他の理由として、使用借権は対抗力がなく明渡しが容易なので、経済的価値が低いといえます。

なお、仮に特別受益ありとした場合でも、被相続人の持戻し免除の意思表示を認められることが多いといえます。

 

4 最後に

以上、土地建物の無償使用と特別受益について説明しました。特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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