1 はじめに
インターネット上で人を侮辱する書き込みをした場合、それは容易に拡散され、インターネット上から完全に削除することができません。また、インターネット上の書き込みは匿名でできるので、内容が過激になってしまうこともあるため、人の名誉を侵害する程度が大きくなることもあります。
ところが、改正前の侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」であり、拘留はなく、多くは9000円ほどの科料にとどまっていました(刑法17条により科料は1000円以上1万円未満)。これでは、インターネット上での悪質な書き込み抑止に繋がらず、名誉毀損罪の量刑(「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」)と不均衡となっていました。
そこで、令和4年6月13日、当罰性の高い名誉毀損行為を処罰するため、侮辱罪の法定刑の引上げに関する法案が国会で可決・成立しました。
2 改正の内容
従来の侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」だけでしたが、これに「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金」が追加されることになりました。
「拘留または科料」が当罰性の低い侮辱を、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金」が当罰性の高い侮辱を捕捉することになります。
このように侮辱罪の法定刑に懲役刑が追加されたことにより、関係規定の適用について運用が変わることになります。
その中でも、特に、住所不定の場合、侮辱罪の嫌疑で逮捕される可能性が出てくることに注意が必要です(刑事訴訟法199条1項但書)。
これにより、侮辱罪の処罰範囲が明確でないことと相まって、表現行為に対する萎縮効果が生じる恐れがあるといった問題点も指摘されています。