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コラム:財産分与の裁判例②

2023.12.28
1 はじめに

財産分与調停(審判)で相手方が自身名義の預金通帳等を任意開示しない場合、裁判所は銀行等に対し調査嘱託を申し立てることになります。ところが、調査嘱託先が口座履歴等を開示しなかった場合、相手方の預金口座の取引履歴は明らかになりません。
以上のような問題状況の中で、原審(大阪家庭裁判所令和2年9月14日審判)が申立代理人による別居時点での預金残高の推計計算は合理的であるとした上で相手方に相応の財産分与をするよう義務付けました。これに対し、抗告審(大阪高等裁判所令和3年1月13日決定、家庭の法と裁判38号64頁では、相手方(抗告人)は原審では一切出さなかった取引履歴を開示し、原審の推計額が誤りであると主張したのに対し、そのような主張は信義則(家事事件手続法2条)に反し認められないとし、抗告を棄却した事案を紹介します。

 

2 銀行口座1について
1 原審

「(ア)同口座(以下「本件口座」という。)について、当裁判所は、調査嘱託を実施したが、上記金融機関は、相手方の同意がないとして調査嘱託に応じなかった
(イ)甲59によれば、・・本件口座は、・・一見明らかに家計の中核的な役割を果たす口座であること、平成22年5月13日の口座残高が28万7236円であったのに対し、最大残高が270万円を超え、・・平成25年8月27日の残高でも166万0815円あったことが認められる。
(ウ)また、申立人代理人は、・・本件口座の取引履歴が判明する上記期間における、相手方の給与額・・や児童手当(子供手当)の法定額などから、取引履歴が不明な期間・・における本件口座への入金額を推計し、他方、本件口座の取引履歴が判明する上記期間における継続的、固定的経費の額から、取引履歴が不明な期間・・における本件口座からの出金額を推計し、これらを総合した結果本件口座の平成27年9月30日現在の残高を少なくとも440万円あると主張したが、これに対し、相手方は、本件口座の取引履歴を一切開示しなかった。
(エ)上記(イ)の事実及び(ウ)の経緯からすれば、申立人代理人の上記推計には相応の合理性があり、これに対して、相手方は、本件口座の取引履歴を開示するだけのことで、上記推計の当否を容易に明らかにすることができるのに、これをしなかったのであるから、財産分与の基準時における本件口座の残高は、少なくとも440万円あったと優に推認できる。

 

2 抗告審

抗告人は、当審に至って、当事者双方の共同生活が解消された時期の本件口座の通帳1頁分の写し(乙20)を提出したところ、これによれば、平成27年9月30日時点の本件口座の残高は168万円余りであることが認められる
そこで検討すると、家事事件の当事者は、信義に従い誠実に家事事件の手続を追行すべき義務があるにもかかわらず(家事事件手続法2条)、一件記録によれば、抗告人による本件手続の追行は、財産隠しと評されてもやむを得ないものであって、明らかに信義に反し不誠実なものというほかはない。このことに、本件口座の同日時点の残高が440万円程度である旨の相手方の推計には相応の合理性があることを併せ考慮すれば、抗告人は、本件手続において判明していない口座を有しており、440万円から168万円余りを差し引いた金額を同口座に保管しているものと認めるのが相当である。」

 

3 銀行口座2
1 原審

「記録によれば、相手方は、婚姻期間中、J株式会社に勤務して給与を得るとともに、Oに勤務して給与を得ていたこと、平成24年度の支給総額は63万2700円であり、O′の年間総額は平均約60万円であることがそれぞれ認められるところ、相手方は、Oからの給与が振り込まれる口座を開示せず、少なくとも、Oの給与に係る入出金を一切明らかにしない。そうすると、申立人主張のとおり、少なくとも相手方は、財産分与の対象となる期間である約7年の間、Oからの給与を年間50万円貯蓄しているものとして、分与対象財産を計上するのが当事者の公平を図るために相当である。」

 

2 抗告審

抗告人は、当審に至って、当事者双方の共同生活が解消された時期のO給与口座の通帳1頁分の写し(乙19)を提出したところ、これによれば、平成27年9月30日時点の同口座の残高は14万円弱であることが認められる
しかし、他方において、乙19によれば、O給与口座から、カードにより、平成27年5月に6万円、同年8月に10万円、同年11月に14万円、同年12月に4万円、平成28年1月に3万円が引き出されていることが認められるところ、抗告人は、このような多額の金員を引き出した理由について、首肯するに足りる説明をしていないし、使途を裏付ける資料を何ら提出しない。このことに、前記のとおり原審判を補正して説示したところを併せ考慮すれば、抗告人は、原審判が認定した350万円から上記14万円弱を差し引いた金額を別口座に保管しているものと認めるのが相当である。」

 

4 財形住宅貯蓄
1 原審

「記録によれば、相手方は、婚姻前ではあるが平成16年から平成18年ころには、財形住宅貯蓄として、J株式会社からの毎月の給与から1万1000円、年2回の賞与から各3万3000円を積み立てていたこと、J株式会社に対する調査嘱託の結果によれば、相手方へ支給すべき給与から財形住宅貯蓄を控除して、取扱金融機関に送金する義務があるJ株式会社は、当裁判所から、平成21年10月20日、同22年2月26日、同27年9月30日の各時点における財形貯蓄残高を照会されたのに対し、財形住宅貯蓄をH銀行において利用しており、同銀行に照会するも本人以外の問い合わせのため回答してもらえなかった旨の回答をしていること、上記のとおりH銀行は、当裁判所の調査嘱託に対しても、相手方が同意しないという理由で回答を拒絶するという態度に出ていること等の事実が認められ、これらの事実によれば、財形住宅貯蓄について申立人の主張どおりの残高があると優に推認でき、そのように推認するのが当事者の公平に合致するというべきである。」

 

2 抗告審

「抗告人は、上記のとおり、原審において、「2011年2月3日」に財形住宅貯蓄が解約済みとなっていること証するH銀行P支店発行の証明書(乙17)を提出した。しかるに、抗告人は、当審に至って、当事者双方の共同生活が解消された時期の同貯蓄の残高が86万9453円である旨の同支店作成の残高証明書(乙21)を提出したものであるこのような抗告人の手続の追行は、財産隠しをしたことを自認するものであって、極めて不誠実で信義に反するものというほかはない。また、抗告人は、上記残高証明書を提出するだけで、依然として取引履歴を明らかにしていない。このことに、前記のとおり原審判を補正して説示したところを併せ考慮すれば、抗告人は、原審判が認定した118万8000円から上記86万9453円を差し引いた金額を別口座に保管しているものと認めるのが相当である。」

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