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コラム:進路変更車と後続直進車の交通事故

2023.11.18
1 はじめに

第2車線を走行していた車両が第1車線に進路変更をした際に第1車線を走行していた後続直進車と衝突する事故は、交通事故の中で比較的よく見受けられる事故類型になります。

以下では、後続直進車が四輪車の場合と単車に分けて基本的な過失割合を説明し、修正要素、裁判例の順に説明していくことにします。

2 後続車が四輪車の場合
1 基本過失割合

過失割合については、東京地裁民事交通訴訟研究会(編集)『別冊判例タイムズ38』判例タイムズ社を参照することになります。

【153図】によれば、基本の過失割合は、後続直進車が30%、進路変更車が70%となります。

2 進路変更車の過失

では、進路変更車にはどのような過失が認められるのでしょうか。
この点、進路変更車は、進路変更の際、第1車両通行帯を進行する車両の進路を妨害しないようにすべき注意義務が課されています(道路交通法26条の2第1項及び第2項)。進路変更車はこの注意義務を怠ったため、70%の過失が認められることになります。

3 後続直進車の過失

他方で、後続直進車にはどのような過失が認められるのでしょうか。
この点、後続直進車は、前方を注視し、四輪車が進路変更することを予測すべき注意義務が課されています。後続直進車はこの注意義務を怠ったため、30%の過失が認められることになります。

3 直進車が単車の場合
1 基本過失割合

【225図】によれば、基本の過失割合は、後続直進車が20%、進路変更車が80%となります。

後続直進車が単車の場合、四輪車と比べると、過失は−10%となります。同じ事故類型であるにもかかわらず、過失割合に差が出るのは、単車は四輪車に比べて交通弱者であるからといえます。

2 交通弱者とは

交通弱者の過失割合が下がる理由について、京都地裁令和4年3月17日(自動車保険ジャーナル2130号掲載)が次のとおり判示しており、非常に参考になります。
「一般に、四輪車、単車、自転車、歩行者の順に立場が弱く、相互間で交通事故が生じた場合、後者の方がより大きな損害を被りやすい傾向にあるといえるから、後者になるほど、いわゆる交通弱者として手厚い保護が必要になり、その反面として、前者になればなるほど後者との関係でより重い注意義務が課されることになると解される。」

 

4 進路変更車が合図を出さなかった場合
1 過失割合

前述のとおり、後続直進車(四輪車)の場合、基本過失割合は、後続直進車(四輪車)が30%、進路変更車が70%となりました。

もっとも、進路変更車が合図(ウインカー)を出さずに進路変更した場合、上記基本過失割合は大きく修正されることになります。具体的には、後続直進車が10%、進路変更車が90%となります。

2 修正の理由

では、進路変更車の過失が+20%となり、後続直進車が−10%となるのは何故でしょうか。

まず、進路変更車は、道路交通法上、進路変更する場合、その3秒前にウインカーで合図しなければなりません(道路交通法施行令21条)。進路変更車はこの注意義務を怠ったため、+20%の過失が認められることになります。

他方で、後続直進車は、進路変更車が合図を出さずに進路変更した場合、その進路変更を予測することが難しくなります。そのため、後続直進車は−20%となります。

このように、進路変更車が進路変更の際にウインカー(合図)を出した否かで過失割合が大きく変わることになるので、裁判例では合図を出したか否かが争われることがあります。
そこで、以下では、合図の有無が争点となった最近の裁判例をご紹介します。

5 進路変更車の合図の有無が争点となった裁判例
1 名古屋地判令和3年11月24日(自動車保険ジャーナル2117号掲載)

進路変更車は、合図とほぼ同時に進路変更をした事案です。なお、後続直進車、進路変更車ともに四輪車でした。

裁判所は、以下のとおり、後続直進車が事故を回避することは相当困難と判断しました。なお、後続直進車ではテレビが流れていたことを考慮し、1割の過失を認めました。

本件事故の過失割合について検討するに、進路変更をするに当たっては、進路を変更しようとする時の3秒前に合図をすべきところ(道路交通法施行令21条)、被告Aは合図とほぼ同時に進路変更を開始し、2秒未満で原告車との衝突に至っていること、被告Aは衝突するまで原告車の存在に気付いていないことからすれば、本件事故はもっぱら被告Aの合図の遅れ、後方不注視の過失により発生したものといえる。
次に、原告Bの過失の程度について検討するに、被告車が進路変更の合図をした時点での原告車と被告車の位置関係や、合図から2秒未満で衝突が生じていることに照らすと、原告Bが本件事故を回避することは不可能ではないとしても、相当困難といわざるを得ない(一般的な運転者が危険を認知してから反応するまでに0.8秒程度の時間を要する。)。」

2 徳島地判令和3年10月8日(自動車保険ジャーナル2112号掲載)

片側3車線の第3車線を走行していた四輪車が、路外の駐車場に入るため、合図を出して進路を左に変更し、第2車線、第1車線を横切ろうとしたところ、第1車線を走行していた直進単車の側面に衝突した事案になります。

裁判所は、次のとおり後続の単車には前方注意義務違反が認められないなどとし、過失ゼロとしました。

「・・・原告において、被告が第3通行帯からそのまま路外に出ようとして進路変更することを想定することは著しく困難であるので、原告の前方注視義務違反があるとは認められない。よって、本件事故においては、原告に過失は認められない。
なお、被告は、別冊判例タイムズNo.38【225】(基本過失割合・原告:被告=20:80)を参考にするべきであるなどと主張するが、 ・・・【225】を参考にするとしても、本件事故の第3通行帯から路外に出ようとする際の事故状況からすると、進路変更車の合図が路外にまで出ようとする合図であると認識することは著しく困難であるので、実質的には進路変更車の合図なし(-20%)の修正要素があるといえ、原告の過失割合を認めることはできない。」

 

6 最後に

以上、進路変更車と後続直進車との交通事故について説明しました。弁護士費用特約に入っている場合、ご自身の保険会社が弁護士費用を負担することになるため、弁護士費用を心配することなく弁護士に交渉等を依頼することができます。のむら総合法律事務所にお気軽にご相談ください(関連記事をご参照ください)。

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