1 はじめに
交通事故により骨折しリハビリ等により骨癒着したものの、関節可動域に制限が残り、それが自賠責より後遺障害と認定されることがあります。
もっとも、訴訟では自賠責と同じ判断がされるとは限りません。というのも、「関節可動域角度の測定について被検査者の意思を含む主観的要素が介在する余地が皆無ではな」い(大阪地判令和3年2月24日)ので、訴訟では関節可動域が争われことがあり、裁判所が自賠責と異なる判断がなされこともままあるからです。
そこで、以下では、関節可動域の制限の計測方法について説明した後、近時の裁判例を紹介します。
2 可動域の計測方法
原則として、患側の関節可動域と健側の関節可動域の数値を比較することにより、後遺障害の等級を判断します。
例外として、例えば健側にも障害がある場合、比較対象となる関節が存在しないので、参考可動域と比較することになります。例外事由がないにもかかわらず参考可動域と比較した場合、計測方法に合理性がないと判断される場合があります(後述の東京地判令和2年11月16日)。
また、関節可動域は、自動運動(自分の力で動かした場合)ではなく、他動運動(医師など他人の力で動かした場合)で判断します。
そして、参考運動(主要運動でない運動)ではなく、主要運動(日常生活にとって最も重要な運動)で判断します。
3 東京地判令和2年11月16日
1 事案の概要
原告は、自賠責保険の後遺障害等級認定において、「右肩関節後方脱臼骨折、右上腕骨骨頭骨折後の右肩関節の機能障害につき、その可動域が健側(左肩関節)の可動域角度の2分の1以下に制限されていることから、自動車損害賠償保障法施行令別表第二(以下の等級につき同じ。)の第10級10号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの)に該当する」と判断されました。
ところが、訴訟では次の事実が認定されました。
【症状固定当時の可動域】
①原告の右肩の可動域は、症状固定当時、他動の外転が90度、外旋が45度、屈曲が100度、自動の外転が90度、外旋が30度、屈曲が100度であった(後遺障害診断書)
【理学療法士によるリハビリ後】
②原告の右肩の可動域は、理学療法士によるリハビリ後は、他動の外転で120度、外旋が40ないし45度、屈曲が100度、自動の屈曲が100ないし110度、外旋が30度となり、症状固定と診断された時でも他動の外転が120度、自動の屈曲が110度になった(カルテ)。
【健側の数値が測定されていないこと】
③後遺障害診断書の健側である左肩の数値は参考値(外転180度、屈曲180度、外旋60度)であり、原告の左肩の数値は測定されていない(後遺障害診断書)。
2 裁判所の判断
裁判所は、①②について「原告の右肩の可動域の数値については、医師が測定したものと、理学療法士がリハビリ後に測定したものとで違いがあるものの、いずれの数値も、専門家が目視により測定したものであり、医師の測定のほうが信頼できるとする合理的な根拠は認められない。」としました。
また、③については「後遺障害診断書の健側の可動域は参考値であるところ、これを用いる合理的根拠は認められないことから、健側である左肩の可動域に比して、右肩の可動域が2分の1以下に制限されているとの認定は合理性を欠くものといえる。」としました。
結論としては、「原告の右肩の機能障害が、第10級10号に該当するとの自賠責保険の認定には、医学的な合理性があるとはいえない。」としました。
4 最後に
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