1 はじめに
例えば、物損事故の被害者が、車両保険を利用して車両を修理したことにより、ノンフリート等級が3等級下がり、年間保険料が増額されることとなった場合、増加した保険料を加害者に対して請求できるかという問題があります。
この点について、裁判例では、以下のとおり、車両保険を使って修理するか、使わず修理するかは被害者の意思によること、車両保険の保険料は自衛のためのコストとして契約者が負担すべきであることから、保険料増額分の請求を認めていません。
2 裁判例
1 東京地判平成13年12月26日
「原告が自身の加入する車両保険金を受領して早期の被害回復を図るか、被告から適正な損害賠償金を得て被害回復を図るか、は、原告自身の選択の問題であって、前者を選択した結果、保険料が増額したとしても、これをもって、本件事故による損害と認めることはできない。」
2 東京地判平成27年9月29日
「交通事故により損傷した車両の修理や買替えをする場合、修理費用や買替費用につき被害者は、①保険契約を利用するか、②保険契約を利用せずに、加害者から支払われる損害賠償金で賄うか、③加害者から損害賠償金が支払われるのを待つことなく、当面は自己負担により対応するかを自由に選択することができ、①を選択して年間保険料が増額されることとなるか、②や③を選択して年間保険料が増額されないこととなるかは、専ら被害者の意思に委ねられていることからすると、被害者が①を選択した場合の年間保険料の増額分を加害者に負担させることが、損害の公平な分担の見地から相当であるとはいい難い。
そもそも、保険契約は、交通事故等により保険契約者側が被った損害の填補又は保険契約者側が他者に与えた損害の賠償のための自衛手段として締結するものであり、保険料は自衛のためのコストとして保険契約者自身が負担すべきものであるから、年間保険料が増額されるリスクについても保険契約者自身が負担するのが相当である。」