1 はじめに
成年後見監督人が、その在任中、成年後見人による横領を防ぐことができなかった場合、損害賠償責任を負担するか否かが争われた名古屋高判令和元年8月8日を紹介します。
2 事案の概要
①平成25年9月12日、家庭裁判所は、Aについて成年後見を開始し、Cを後見人に選任するとともに、B(司法書士)を後見監督人に選任するとの審判をしました。
②Cは、平成25年7月18日から平成28年10月21日までの間、Aの通帳から5036万8482円を横領していました。
③平成28年7月1日、Bは、施設から、平成27年11月分から平成28年5月分の施設費が未納であるとの連絡を受けました。
④平成28年11月1日、Bは、家庭裁判所に対し、Cから、平成28年4月以降の報告がない旨の事務報告書を提出しました。
⑤平成28年11月1日、家庭裁判所は、職権で、預貯金の引出し等の処分禁止の保全処分の審判をしました(民法863条2項)。
※民法863条2項「家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」
⑥平成28年11月11日、家庭裁判所は、後見人(弁護士)を追加選任し(民法843条3項)、事務分掌の審判をしました(民法859条の2第1項)。審判は12月1日、確定。
※民法843条3項
「成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。」
※民法859条の2第1項
「成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。」
⑦平成28年11月27日、家庭裁判所は、Cを後見人から解任する審判をし、同審判は、平成29年1月13日、確定した。
※民法846条
「後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。」
⑧平成28年12月5日、Bは、家庭裁判所に対し、成年後見監督人の辞任許可申立てをし、これを受けて、裁判所は、辞任を許可する旨の審判をしました。
※民法844条
「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」
※民法846条
「・・第八百四十四条・・の規定は後見監督人について、・・準用する。」
3 裁判所の判断
Cは、Bから定期報告に際して通帳の提出を求められた時、通帳の写し変造するなど横領行為が発覚しないよう偽装工作をしていました。そのため、Bは、約3年間にわたり、Cの横領を把握することができませんでした。
Bが通帳の原本を確認していなかったことが善管注意義務に反するか否かが問題となりましたが、地裁、高裁は、当時の家庭裁判所の運用上、後見監督人が通帳原本を確認することまで求められていなかったとし、Bの義務違反があったとは認めませんでした。
4 最後に
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