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コラム:差押えと相殺

2024.03.01
1 はじめに

民法改正により、差押えと相殺についての規律が改正されることになりました。以下、概略を説明していきます。

 

2 民法511条1項
1 制限説

第三債務者は、その反対債権(自働債権)の弁済期が被差押債権(受動債権)の弁済期よりも後に到来する場合、相殺することができないという考え方です。

最判昭和45年6月24日の反対意見は、制限説に立っていますので、紹介します。

「およそ、相殺は相対立する債権の弁済期が共に到来したときにはじめてなしうるのであつて、第三債務者の有する反対債権の弁済期が被差押債権のそれよりも後に到来するものである場合には、差押債権者は、被差押債権の弁済期到来と同時にその段階においてすでに右債権の弁済を受けうる地位にあるのであるから、第三債務者はもはや右差押債権者の地位を害することをえず、自らの有する反対債権をもつて相殺をなしえないものといわなければならない。けだし、両債権の弁済期の先後が右のような関係にある場合には、第三債務者は、差押当時、自己の有する反対債権をもつて、被差押債権と相殺することにより自己の債務を免れるという正当な期待を有しないものというべきであり、同法五一一条は、かかる場合にも類推適用さるべきものというべきであつて、もし、かように解さなければ、第三債務者が、既に弁済期の到来した被差押債権の弁済を拒否しつつ、自己の自働債権の弁済期の到来をまつて、相殺を主張しうることをも認容せざるをえず、かくては、差押債権者の利益に比して、第三債務者の利益を不当に保護する結果を招来するにいたるからである。」

 

2 無制限説

第三債務者は、反対債権(自働債権)を差押前に取得していた場合、相殺適状に達しさえすれば、その弁済期の先後を問わず相殺することができる、という考え方です。

最判昭和45年6月24日の多数意見は、無制限説に立っていますので、紹介します。

「民法五一一条は、一方において、債権を差し押えた債権者の利益をも考慮し、第三債務者が差押後に取得した債権による相殺は差押債権者に対抗しえない旨を規定している。しかしながら、同条の文言および前示相殺制度の本質に鑑みれば、同条は、第三債務者が債務者に対して有する債権をもつて差押債権者に対し相殺をなしうることを当然の前提としたうえ、差押後に発生した債権または差押後に他から取得した債権を自働債権とする相殺のみを例外的に禁止することによつて、その限度において、差押債権者と第三債務者の間の利益の調節を図つたものと解するのが相当である。したがつて、第三債務者は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解すべきであり、これと異なる論旨は採用することができない。」

 

3 具体例

銀行Aは、法人Bに貸金債権を有していた。
Aは、Bが返済期限を徒過したため、BのCに対する売掛債権(弁済期5月20日)を差し押さえた。
差押時点で、CもBに対して売掛債権(弁済期が5月30日)を有していた。

制限説の場合、Cは相殺することができません。これに対し、無制限説の場合、Cは相殺することができます。

 

4 改正法

民法511条1項は、無制限説に立つことを明らかにしました。

差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。

 

3 民法511条2項
1 差押前の原因に基づいて差押え後発生した債権

差押え時点で、第三債務者が実際に反対債権を有していなくても、債権の発生原因となる行為が差押え前に生じていれば、債権発生後に相殺することにより自己の債務を消滅させることができるという期待について合理的なものとして保護するのが相当です。

 

2 改正法

そこで、民法511条2項本文は、「前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。」と定めました。

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