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コラム:遺産分割の方法

2024.01.05
1 遺産分割の方法とその優先順位

遺産分割の方法は、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有とする分割の4つの方法があります。

裁判例(大阪高裁平成14年6月5日決定)は、遺産分割方法の優先順位について次のとおり述べています。
「遺産分割は、共有物分割と同様、相続によって生じた財産の共有・準共有状態を解消し、相続人の共有持分や準共有持分を、単独での財産権行使が可能な権利(所有権や金銭等)に還元することを目的とする手続であるから、遺産分割の方法の選択に関する基本原則は、当事者の意向を踏まえた上での現物分割であり、それが困難な場合には、現物分割に代わる手段として、当事者が代償金の負担を了解している限りにおいて代償分割が相当であり、代償分割すら困難な場合には換価分割がされるべきである
共有とする分割方法は、やむを得ない次善の策として許される場合もないわけではないが、この方法は、そもそも遺産分割の目的と相反し、ただ紛争を先送りするだけで、何ら遺産に関する紛争の解決とならないことが予想されるから、現物分割や代償分割はもとより、換価分割さえも困難な状況があるときに選択されるべき分割方法である。

このように、遺産分割の方法は、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有の順に検討するべきとされています。
なお、遺産分割調停では、当事者全員が合意すれば、実情に応じた分割方法を決めることができます。

以下では、①から順に内容を説明していきます。

 

2 現物分割
1 調停の場合

甲土地をAが、乙土地をBが相続するというのが典型例です。
甲土地を乙土地と丙土地に分筆し、乙土地をAが、丙土地をBが相続することもできます。

 

2 審判の場合

分筆を伴う現物分割の場合、分筆に際し、当事者の協力のもとで土地の測量が必要です。また、土地をどのように分筆するか当事者の話合いが必要となります。したがって、審判では、分筆を伴う現物分割は認められません。

 

3 代償分割
1 審判の場合

家事事件手続法195条によれば、「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。」とされています。

裁判例(大阪高裁平成3年11月14日決定)では、家事事件手続法195条の「特別の事情」とは、「現物分割が不可能であるか、可能であっても、分割によって著しく価値を減ずる場合あるいは現物分割が可能であるが、遺産の内容や相続人の職業その他の事情から相続人の一部の者に対し具体的相続分を超えて遺産である現物を取得させるのが合理的と認められる場合等であって、かつ、代償金支払債務を負担させられる者にその支払能力があることを要し、代償金支払債務を負担させられる者にその支払能力がないのに、なお債務負担による分割方法が許されるのは、他の共同相続人らが、代償金の支払を命じられる者の支払能力の有無の如何を問わず、その者の債務負担による分割方法を希望するような極めて特殊な場合に限られるものというべきである。」とされています。

このように、遺産分割審判の場合に代償分割が認められるためには、代償金支払債務を負担する相続人に支払能力があることが必須なので、即時払いが原則となります。分割払いは極めて特殊な場合に限定されることになります。

そして、代償金が高額になる場合、代償金支払債務を負担する相続人に支払能力があるか確認する必要があります。そこで、裁判所は、代償金支払債務を負担する相続人に対し、預貯金の残高証明書や預貯金通帳の写しの提出を求めることになります。

また、代償金支払債務を負担する相続人が融資を受けて代償金を支払うこともあります。この場合、裁判所は、代償金支払債務を負担する相続人に対し、銀行支店長名義の融資証明書の提出を求めることになります。

さらに、代償金支払債務を負担する相続人が自身の所有不動産を売却し、その売却代金で代償金を支払うこともあります。この場合、裁判所は、買主の買付証明書の提出を求めることになります。

 

2 調停の場合

遺産分割調停の場合、家事事件手続法195条のような縛りはないので、遺産分割審判において求められていた証拠資料を提出する必要は必ずしもありません。

また、当事者の合意があることが前提となりますが、銀行融資を受けて相当期間後に代償金を支払う方法や、代償金を分割払いする方法、代償金の支払いに代えて相続人名義の不動産の所有権を移転させる方法なども柔軟に認められることになります。

 

3 譲渡所得税との関係

代償金支払債務を負担する相続人が代償金を支払って遺産を取得した場合、譲渡所得税が発生することになります。

譲渡所得は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算するところ(所得税法33条3項)、取得費に代償金を参入することはできません(最決平成6年9月13日)。

代償金支払債務を負担する相続人は、代償金に加えて、譲渡所得税を負担することになるので、このような負担を考慮して代償金の額を決めるべきです。

 

4 換価分割
1 審判の場合

遺産分割審判では、換価分割は、競売による方法しか認められません。

審判で競売が命じられた場合、当事者の一人が、審判正本を執行裁判所に提出し(民事執行法81条1項)、手続費用を予納することにより、手続が開始されることになります。
対象不動産が被相続人名義の場合、いったん当事者全員に共有持分移転登記をしなければなりません。

 

2 調停の場合

遺産分割調停では、換価分割は、競売による方法だけでなく、任意売却も認められます。

任意売却の場合は、共同相続人全員が協力しなければ実現できません。したがって、期日に出頭しない相続人が一人もでいる場合、あるいは任意売却に非協力的な相続人がいる場合は、任意売却を前提とした調停を成立させることはおよそできません。

任意売却は、調停成立前に行う方法、調停成立後に行う方法の2種類あります。

【成立前】
調停係属中、不動産を換価して、売却代金を分割する方法

【成立後】
各相続人が具体的相続分率に応じて取得し、不動産換価後、その代金を具体的相続分率で分配する内容の調停を成立させた上で、調停成立後、実際に換価し、分配する方法

なお、換価手続は、①相続人の代表者が行う方法、②相続人全員が行う方法があります。

 

5 共有による分割

遺産共有の状態で審判終了とし、共有関係の解消は共有物分割訴訟(管轄は地方裁判所)で別途解決する方法になります。

 

6 最後に

遺産分割について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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