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コラム:家業従事と寄与分

2023.12.27
1 はじめに

相続人の一人が被相続人の農業や自営業に従事していた場合、その労務の提供について寄与分(民法904条の2第1項)が認められることがあります。これは家事従事型の寄与分といわれています。

家事従事型の寄与分が認められるためには、一般的には、以下の5つの要件を満たす必要があります。
①特別の寄与
②無償性
③継続性
④専従性
⑤財産の維持又は増加との因果関係

以下では、各要件について簡単に説明した上で、農業、自営業(郵便局)の裁判例をご紹介します。

 

2 各要件の説明
1 特別の寄与

通常の扶養義務の範囲を超える労務の提供をしていることが必要となります。

 

2 無償性

寄与分を主張する相続人は、報酬をもらわずに家業に従事していることが必要となります(後述の裁判例)。

他方で、寄与分を主張する相続人が、家業に従事したことの対価として相応の報酬を得ていた場合、あるいは被相続人と同居し、家賃や食費を一切支出していなかった場合は、無償性の要件を満たさないことになります。

 

3 継続性

目安ではありますが、3年以上とされています。

 

4 専従性

専業、専念までは必要ないと言われています。
もっとも、平日はサラリーマン、土日に家業を手伝っている程度では専従性は認められません。

 

5 被相続人の財産の維持又は増加との因果関係

相続人が家業に従事したことによって被相続人の財産の維持又は増加したといえなければなりません。したがって、相続人が被相続人から相応の収入を得ていた場合は、相続人の家事従事と財産の増加又は維持に因果関係は認められません。

 

3 寄与分の評価方法
1 計算方法

寄与相続人が通常得られたであろう給付額×(1-生活費控除率)×寄与期間

 

2 寄与相続人が通常得られたであろう給付額

家業と同業種・同規模、同年齢の賃金センサスを参考にすることが一般的です。

 

3 生活費控除率

寄与相続人が被相続人から受けていた報酬や生活費を控除して算出します。

 

4 裁判例
1 千葉家裁平成3年7月31日審判

この事案では被相続人の農業に従事していた相続人の寄与分が問題となりました。

寄与相続人は、農業専門学校卒業後に実家に残り、約15年間にわたり、報酬をもらわず、実家の農業に従事していました。また、寄与相続人は、被相続人が亡くなるまでの約10年間は、被相続人が家業の農業を引き継いで行ってきました。

裁判所は「主として被相続人の家業である農業の後継者としてこれに従事することにより労務を提供し、・・・本件遺産の維持に貢献したものと認められるので、相応の寄与分を肯定してしかるべきと解される。」とし、「相続開始時の遺産評価額合計2億7671万9000円のおよそ3.6パーセントに当たる1000万円と認定するのが相当である。」としました。
なお、裁判所は、寄与分額の算定にあたり、家事従事分のみならず被相続人の扶養を行っていたことも考慮しています。

 

2 札幌高裁平成27年7月28日決定

この事案は、被相続人がしていた郵便局の業務に従事していた相続人の寄与分が問題となった事案です。寄与分を主張していた相続人は、「平成18年の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均年収は514万9000円であり、被抗告人B夫婦が受領した同年1年分に換算した専従者給与285万円は、平均給与の半分にも充たない金額である。」と主張していました。

原審は、寄与分を主張する相続人について、相続開始時における遺産総額(1億0366万0274円)の約3割、金額にして3100万円と認めました。これに対し、高裁は、以下のとおり寄与分を一切認めませんでした。

「・・平成18年□月までの前記郵便局の業務主体は被相続人であったこと、給与水準は従事する事業の内容、企業の形態、規模、労働者の経験、地位等の諸条件によって異なるから、賃金センサスによる大卒46歳時の年収の平均額に充たなかったとしても、被抗告人B夫婦の収入が低額であったとはいえず、むしろ月25万円から35万円という相応の収入を得ていたことが認められること、更に被抗告人B夫婦は被相続人と同居し、家賃や食費は被相続人が支出していたことをも考慮すると、被抗告人Bは、上記郵便局の事業に従事したことにより相応の給与を得ていたというべきであり、被抗告人Bの郵便局事業への従事が、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたとは認められない。」

 

5 最後に

以上、家業従事と寄与分について説明しました。寄与分について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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✔寄与分一般についての解説記事はこちら▶その他の問題(寄与分・特別受益)

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