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コラム:危急時遺言の裁判例

2023.12.28
1 はじめに

以下では、原審が危急時遺言が真意に基づきなされたものではないとしたのに対し、高裁がそれを覆した裁判例(東京高裁令和2年6月26日決定)を紹介します。

 

2 危急時遺言の作成手続
1 遺言作成時

「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。」とされています(民法976条1項)。

 

2 遺言作成後

「遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。」とされています(同条4項)。

また、裁判所は「前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」としています(同条5項)。

 

3 東京高裁令和2年6月26日決定
1 事案の概要

・12月6日
長男から相談を受けた弁護士が公正証書遺言を作るため長男宅を訪問、遺言者と面談。遺言者との意思疎通には問題はなく、遺言作成に同意し「長男にすべて残す。」と述べた。

・12月18日
弁護士のもとに長男から遺言者の体調がよくないという連絡があり、弁護士は念のため危急時遺言の手続きをすることとした。

・12月19日
遺言者が入院する病院で行政書士3人が証人として立ち会い、危急時遺言を作成。遺言者は「長男にすべて残す。」と述べた。

・12月23日
家庭裁判所調査官は、入院先の病院にて遺言者と面接した。本件遺言の内容等に関する遺言者の回答にはあやふやな点が見られた。
主治医は、遺言者を重度認知機能障害と診断し、この診断結果が19日における遺言者の認知機能障害の程度と大きくかい離するとは考えにくいとの意見を述べていた。

 

2 裁判所の判断

まず一般論として次のとおり述べました。
「家庭裁判所が危急時遺言の確認をするに当たっては、当該遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得る必要があるところ(民法976条5項)、この確認には既判力がなく、他方でこの確認を得なければ当該遺言は効力を生じないことに確定してしまうことからすると、遺言者の真意につき家庭裁判所が得るべき心証の程度については、確信の程度にまで及ぶ必要はなく、当該遺言が一応遺言者の真意に適うと判断される程度のもので足りると解するのが相当である。

その上で、あてはめでは、12月23日の遺言者の状況について「本件遺言のように「長男に全ての財産を相続させる」という程度の単純な遺言の内容についてまで、およそ理解し得ない状態であったかは必ずしも明らかではないというべきである。」とし、同日の家庭裁判所調査官との面談において回答があやふやだった点については「本件病院に入院中の遺言者の状況をみると、日によって意識レベルや応答能力に変動がある様子も見受けられるのであり、そうすると、同日の遺言者の状態がたまたま悪かったということも考えられるところである。」とするなどと判示し、「真意」に出たものと評価できるとしました。

 

4 最後に

以上、危急時遺言の裁判例について説明しました。遺言の一般的なことについては、関連記事をご確認ください。

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