1 はじめに
年金受給者が亡くなった場合、遺族は、年金受給権を死亡逸失利益として請求することになります。
年金は生活費に充てられる割合が高いので、生活費控除率を50~60%で計算することになります。
以下では、原告側は、死亡逸失利益の計算に際して生活費控除率50%としたのに対し、裁判所がケアハウスの利用徴収額を生活費控除額とした珍しい裁判例(さいたま地判令和3年6月29日、自動車保険ジャーナル2105号掲載)を紹介します。
2 事案
被害者(79歳)は、本件事故当時、特定施設入居者介護の指定を受けた軽費老人ホームに入居していました。
原告側は、逸失利益について、年間の年金額1、004、387×平均余命に対応するライプニッツ係数9.3936×生活費控除率50%=471万7405円であると主張しました。
これに対し、被告側は、定型化された生活費控除率ではなく、生活費として証拠上明らかな入居施設の利用料年額78万2040円を控除すべきである、と主張しました。
被告の主張によれば、(1、004、387-782、040)×9.3936=208万8639円となります。
3 裁判所の判断
「Aが入居していたケアハウスの利用徴収額は月額6万5170円、年額78万2040円であるところ(乙2の1、2)、Aの身上や年齢を考慮すれば、本件事故がなければ上記ケアハウスを利用し、生活費として同金額を要したことが見込まれる。」とし、被告の主張が妥当であるとしました。
4 最後に
✔死亡逸失利益に関する全般的な解説記事はこちら▶コラム:死亡逸失利益の計算