1 はじめに
例えば、妻が長年暮らしていたマイホームの配偶者居住権を取得する場合、マイホームそのもの(所有権)を取得する場合よりも低価格で取得することができます。というのも、配偶者居住権の場合、使用、収益権限が認められるにとどまるので、処分権限まである所有権よりも価値が低くなるからです。
これにより、妻は、マイホームに引き続き暮らすことができ、かつ預貯金などの金融資産も相続できる可能性が高まります。
そこで、以下では、配偶者居住権の全般について説明していきます。
2 配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権が成立するためには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。
第1に、配偶者居住権の「配偶者」は、被相続人と婚姻していた配偶者をいいます。「配偶者」には内縁配偶者は含まれません。
第2に、配偶者居住権の目的となる建物は、相続開始の時点で、被相続人の財産に含まれていなければなりません。そのため、被相続人の借家には配偶者居住権は発生しません。
第3に、配偶者は相続開始時に建物に居住していなければなりません。居住していたとは、配偶者が当該建物を生活の本拠としていたことをいいます。配偶者が被相続人が亡くなるまで同居していた場合は問題ありませんが、別居状態にあった場合は問題となります。
第4に、配偶者居住権は、遺産分割、遺贈又は死因贈与契約によって成立します。反対に、特定財産承継遺言では成立しません。
もっとも、特定財産承継遺言の場合でも配偶者居住権が認められる余地は残されています。というのも、最高裁判例では、相続させる旨の遺言について特段の事情がある場合は遺贈と解釈できるとされているからです(最判平成3年4月19日)。
3 配偶者居住権の登記
配偶者が配偶者居住権を第三者に対抗するためには、配偶者居住権の設定登記をしなければなりません(民法第1031条第2項,同605条)。
配偶者居住権の設定登記は、配偶者と居住建物の所有者との共同申請により行います(不動産登記法60条)。
居住建物の所有者が登記に非協力的な場合もあります。この場合、配偶者は居住建物所有者に対し登記義務の履行を求める訴えを提起することができます(民法1031条第1項)。
遺贈により配偶者居住権を設定する場合、建物所有者が登記に協力しない場合に備えて、遺言執行者の定めを設けるべきです。というのも、遺贈の履行(配偶者居住権の登記)は遺言執行者が単独で行うことができるからです(民法1012条第2項)。
4 配偶者居住権を取得した者の義務
配偶者居住権を取得した者は固定資産税を支払う義務があります。「通常の必要費」(民法第1034条第1項)には居住建物やその敷地の固定資産税が含まれるためです。
また、配偶者居住権を取得した者は、居住建物を修繕することができます(民法第1033条)。この修繕費用は「通常の必要費」(民法第1034条第1項)に含まれるため、配偶者居住権を取得した者が負担しなければなりません。
5 配偶者居住権の換価
配偶者が配偶者居住権の設定を受けて居住していたが、途中で老人ホームで生活することになったとします。このようなケースにおいて配偶者居住権を換価する方法について説明します。
まず、前提として、配偶者居住権は一身専属権なので第三者に譲渡することは認められません(民法第1032条第2項)。また、配偶者は、居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の買取請求もできません。
その上で、以下の2つの方法が考えられます。
第1に、配偶者は、第三者からの賃料収入を通じて配偶者居住権の価値を回収することができます。この場合、第三者に賃貸することになるので、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法第1032条第3項)。
ちなみに、配偶者居住権の存続期間は配偶者が亡くなるまでです。そのため、賃借人からすれば、突然、配偶者が亡くなり、賃貸借契約が終了するリスクがあります。
第2に、配偶者は、配偶者居住権を放棄することを条件に、所有者から放棄料を受け取ることも考えられます。
6 その他の問題
配偶者居住権は配偶者が亡くなるまで存続します。そして、配偶者居住権の評価額は存続期間が長ければ長いほど高くなります。そうすると、存続期間が長期間に及んだ場合(例えば55歳で設定した場合は平均余命からして存続期間は30年ほどになる)、配偶者居住権は所有権と同程度の価値になります。この場合はむしろ所有権を相続する方がよいので、あえて配偶者居住権を設定するメリットはありません。
また、配偶者が自宅の配偶者居住権の遺贈を受けた場合、原則として特別受益にあたります。もっとも、20年以上夫婦関係にある夫から妻への配偶者居住権の遺贈は、持戻し免除の意思表示が推定されることになります(民法903条4項)。
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7 最後に
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