1 はじめに
両親以外の事実上の監護者が家庭裁判所に対し子の監護者指定の申立てを行うことができるかが争われ、高裁(大阪高裁令和2年1月16日決定)、最高裁(令和3年3月29日決定)とで判断が分かれた事例を紹介します。
2 事案の概要
母と前夫は、平成21年12月、子をもうけたが、平成22年2月、子の親権者を母と定めて離婚しました。母は、実家で祖父母と同居するようになり、母と祖父母で子を監護するようになりました。
ところが、母は、平成29年8月頃、子を実家に残したまま、相手方宅を出て後夫と同居するようになり、以後、祖父母が単独で本件子を監護していました。なお、母と後夫は、平成30年3月に婚姻し、その際、後夫は子と養子縁組をしました。
祖父母は父母の監護が不適切であるなどとして家庭裁判所に対し監護者指定の申立てを行いました。
3 原審
まず、原審は、原原審と同じく、以下のとおり、事実上の監護者である祖父母も子の監護者指定を申し立てることができるとしました。
「子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。」
その上で、祖父母を監護者と指定するためには、以下のとおり、親権者の親権行使を制限する規定(民法834条や835条)にならって、厳格に判断するべきとしました。
「事実上の監護者である祖父母等に子の監護者指定の申立権を認めるとしても、当該祖父母等を子の監護者と定めることは、親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなるから、慎重な判断が求められる。しかし、他方において、その判断に当たっては、子の福祉の観点を最も重視すべきである。したがって、上記祖父母等を監護者と定めるためには、上記親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要すると解するのが相当である。」
4 最高裁
766条2項は父母が申立人であることを予定していること、他に事実上の監護者を申立権者とする規定がないことから、事実上の監護者である祖父母は監護者指定の申立権者とならないとしました。
「民法766条1項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他の子の監護について必要な事項は、父母が協議をして定めるものとしている。
そして、これを受けて同条2項が「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定していることからすれば、同条2項は、同条1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。
他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、上記の申立てについて、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。なお、子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければならないものであるが(民法766条1項後段参照)、このことは、上記第三者に上記の申立てを許容する根拠となるものではない。
以上によれば、民法766条の適用又は類推適用により、上記第三者が上記の申立てをすることができると解することはできず、他にそのように解すべき法令上の根拠も存しない。」
5 未成年後見について
父母の親権行使が不適当な場合、事実上監護していた祖父母は、父母の親権を停止させ、未成年者に親権者がいない状態になった後、未成年後見人に選任されることが可能となります。
すなわち、祖父母は、親族として、家庭裁判所に対して、親権停止の審判申立てをすることができます(民法834条の2)。また、この申立てと同時に、家庭裁判所に対して、親権停止の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任するよう申し立てることができます(家事事件手続法第174条第1項)。
その後、父母の親権が停止された場合、「未成年者に対して親権を行う者がないとき」(民法838条1号)状態となります。そこで、祖父母は、家庭裁判所に対して、利害関係人として、子の未成年後見人を選任するよう請求することができます(民法第840条1項)。
6 最後に
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