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コラム:特定財産承継遺言と代襲相続人

2024.01.12
1 はじめに

公正証書遺言の場合、当該遺言において、遺言者の死亡以前に指定に係る相続人が死亡したときは代襲相続人となるべき者に相続させる旨を補充的に記載する規定を設けることが多いと思われます。

ところが、遺言書において上記のような補充規定を明記していなかった場合、遺言者よりも先に当該相続人が亡くなった場合、その代襲相続人が遺言に基づき相続することになるのでしょうか。

この点、遺贈の場合は明文規定があります。すなわち「遺贈は、遺言者の死亡以前に受益者が死亡したときは、その効力を生じない。」(民法994条)という内容です。
これに対し、特定財産承継遺言は、明文の規定がありませんので、解釈問題となります。
そこで、以下、最判平23年2月22日をご紹介します。

 

2 事案の概要
1 遺言の内容

Aは、平成5年2月17日、次のようなシンプルな公正証書遺言を作成しました。

第1条
「相続人として承継した左記不動産を含む、遺言者Aの所有又は権利に属する財産の全部を、遺言者の長男B(昭和7年〈略〉生)に相続させる」

第2条
「遺言執行者として、不動産業の丙を指定する」

 

2 遺言作成後

Bは、平成18年6月21日、死亡しました。
Aは、新たな遺言書を作成することなく、平成18年9月23日に死亡しました。

 

3 裁判所の判断
1 一般論

「被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって、上記のような「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

 

2 あてはめ

「・・・本件遺言書には、・・・わずか2か条しかなく、BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上、本件遺言書作成当時、Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから、上記特段の事情があるとはいえず、本件遺言は、その効力を生ずることはないというべきである。」

 

3 コメント

本件事実関係は、前述したとおりわずか2条のシンプルな遺言書でした。あてはめで述べられているとおり、これ以外に「BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項」があったとすれば、特段の事情ありと判断される余地があると思われます。

 

4 最後に

以上、特定財産承継遺言と代襲相続人について説明しました。遺言の一般的なことについては、関連記事をご確認ください。

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