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コラム:婚姻費用分担請求と権利濫用

2023.12.27
1 はじめに

夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないので(民法752条)、別居した場合でも、他方に自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負うことになります。したがって、別居した妻は、夫に対し、婚姻費用の分担を請求することができます。

もっとも、裁判例では、婚姻費用の分担を求めることが権利濫用または信義則に反するとして認められない場合もあります。
以下では、裁判例をご紹介します。

 

2 不貞の裁判例
1 福岡高裁宮崎支部平成17年3月15日決定

「上記によれば、相手方は、Fと不貞に及び、これを維持継続したことにより本件婚姻関係が破綻したものというべきであり、これにつき相手方は、有責配偶者であり、その相手方か婚姻関係が破綻したものとして抗告人に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは、一組の男女の永続的な精神的、経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活体が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することに他ならないのであるから、このような相手方から抗告人に対して、婚姻費用の分担を求めることは信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。」

 

2 東京家裁平成20年7月31日審判

「別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというベきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されずただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。」

以上、2つの裁判例からすれば、不貞を働いた権利者は、義務者に対し婚姻費用分担請求をすることは権利濫用又は信義則違反とされており、自身の生活費に相当する部分の支払いを求めることはできない=同居の未成年者分の支払いを求めることができるにとどまる、とされています。

 

3 その他

東京高裁平成31年1月31日決定は、2で述べた不貞の事案ではありませんでしたが、請求者側に別居の主たる原因があった事案でした。その上で、権利者と義務者の経済状況からして、権利者の婚姻費用分担請求は権利濫用又は信義則違反となり認められないとしました。

「以上によれば、抗告人と相手方の別居の直接の原因は本件暴力行為であるが、この本件暴力行為による別居の開始を契機として抗告人と相手方との婚姻関係が一挙に悪化し、別居の継続に伴って不和が深刻化しているとみられる。そして、本件暴力行為から別居に至る抗告人と相手方の婚姻関係の悪化の経過の根底には、相手方の長男に対する暴力とこれによる長男の心身への深刻な影響が存在するのであって、このことに鑑みれば、必ずしも相手方が抗告人に対して直接に婚姻関係を損ねるような行為に及んだものではない面があるが、別居と婚姻関係の深刻な悪化については、相手方の責任によるところが極めて大きいというべきである
(3)翻って、相手方と抗告人の経済的状況をみると、前記認定事実のとおり、相手方は、栄養士及び調理師として稼働し、平成29年には330万円余りの年収があるところ、抗告人が住宅ローンの返済をしている住居に別居後も引き続き居住していることによって、抗告人の負担において住居費を免れており、相応の生活水準の生計を賄うに十分な状態にあるということができる。他方、抗告人は、会社を経営し、平成29年には約900万円の収入があって、それ自体は相手方の収入よりかなり多いが、相手方が居住している住宅に係る住宅ローンとして月額約24万6000円を支払っており、さらに、別居後に住居を賃借し、長男の一時保護措置が解除された後に同住居において長男を養育しているが、その住居の賃料及び共益費(月額合計18万6000円)、私立学校に通学する長男の学費(年額91万9700円)や学習塾の費用(月額約4万円)などを負担している。
(4)上記(3)のような相手方及び抗告人の経済的状況に照らせば、上記(2)のとおり別居及び婚姻関係の悪化について上記のような極めて大きな責在があると認められる相手方が、抗告人に対し、その生活水準を抗告人と同程度に保持することを求めて婚姻費用の分担を請求することは、信義に反し、又は権利の濫用として許されないというべきである。」

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