1 はじめに
民法1049条第1項によれば、「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。」とされています。
このように、遺留分の放棄は、裁判外で行って効力が生じるものではなく、家庭裁判所の許可審判がない限り認められません。以下では、遺留分の放棄について裁判例を紹介していきます。
2 遺留分放棄の要件
民法は、遺留分放棄の許可要件を明記していません。以下の裁判例では、遺留分放棄は、①遺留分権利者の自由意志に基づくこと、②遺留分放棄の理由が合理的であること、③遺留分放棄の必要性があること、④代償措置が講じられていることが必要とされています。
【東京家裁昭和54年3月28日審判】
「遺留分制度の趣旨等に鑑み、遺留分放棄が民法の基本理念に反するような遺産分配の手段とされたり、関係人の圧力により遺留分権利者が不本意にも放棄させられるというような、放棄制度の濫用を防止するため、相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可を受けた場合に限り、効力を生ずるものとされたのであるから(民法一〇四三条)、家庭裁判所が、遺留分放棄の許可審判をなすにあたつては、遺留分放棄が、遺留分権利者の自由な意思に基づくものであるか否かを吟味するとともに、その意図するところが、民法で定める均分相続の基本的な理念を没却するものであれば、これを排斥するなどの措置を講じることはもとより、相続財産の内容、性質、遺留分権利者と被相続人その他の親族間の事情等を慎重に調査検討し、遺留分放棄の理由が合理性若しくは妥当性、必要性ないし代償性を具備しているものと認められる場合に、事前放棄の許可審判をなすべき」
3 裁判例
1 はじめに
和歌山家裁昭和63年10月7日審判をご紹介します。この審判では、家庭裁判所は遺留分の放棄が遺留分権利者の自由意志(真意)に基づかないとされています。
2 事案の概要
・申立人と被相続人の間で、申立人の夫との結婚問題につき長い期間にわたり親子の激しい対立があった。
・申立人は、被相続人の干渉が繰り返されたため、家を飛び出し、申立人の夫と同棲することになった。
・申立人は、自らの意思で婚姻届を提出した。
・申立人は、被相続人からの働き掛けにより、婚姻届の翌日、遺留分放棄の申立てを行った。
3 裁判所の判断
「本件申立は必ずしも申立人の真意であるとは即断できず、その申立に至る経過に照らしても、これを許可することは相当でないといわざるをえない。」
4 最後に
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