1 はじめに
例えば15歳の中学生が自転車を運転中にわき見運転をして前方で歩いていた高齢者に追突した場合、中学生やその両親は高齢者に対しどのような責任を負うことになるでしょうか。以下では、自転車事故の問題点、裁判例をご紹介します。
2 自転車事故の問題点
1 強制加入保険がない
自動車の場合は自賠責保険という強制加入保険がありますが、自転車の場合はありません。そのため、加害者やその親族が自転車保険や個人賠償責任保険に加入していなければ、加害者は自身の財産から賠償をしなければなりません。したがって、加害者側に賠償資力が乏しい場合、被害者は十分な賠償を受けれないことになります。
2 後遺障害認定制度がない
自動車の場合、損害保険料率算出機構で後遺障害の認定をすることになります。そして、損害保険料率算出機構において後遺障害等級が認定された場合、特段の事情がない限り、後遺障害等級に見合った労働能力喪失率と慰謝料の額について一応の立証がなされたと考えられています。
これに対し、自転車の場合、自動車のような制度がありません。そのため、被害者は、後遺障害の立証の負担しなければなりません。
3 未成年者の両親の賠償義務
未成年者に責任能力がある場合には、未成年者が不法行為責任を負うことになります(民法712条参照)。
また、「未成年者が責任能力を有する場合であつても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法七〇九条に基づく不法行為が成立する」ことになります(最判昭和49年3月22日)。
4 大阪高判平成23年8月26日
1 事案
甲(本件事故当時14歳)は、歩道がなく路側帯のみが設置された本件道路の路側帯内を自転車で進行中、終始右側を脇見しながら約10メートルにわたり本件自転車を運転し、路側帯内で佇立していた乙(本件事故当時85歳)に衝突した。なお、甲は衝突するまで乙の存在に気付かなかった。
※道路交通法
「自転車は、著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除き、路側帯を通行することができる。」(17条の2第1項)「前項の場合において、自転車は、歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない。」(17条の2第2項)
2 裁判所の判断
裁判所は、甲の不法行為責任を認めた上で、両親の責任については次のとおり否定しました。「被控訴人両親から見て、本件事故当時、被控訴人松男が、①社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り、又は容易に知ることができたことや、②他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り、そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて、控訴人は、具体的な主張、立証をしていない。」
5 最後に
お困りの方は、のむら総合法律事務所までご相談ください。
✔のむら総合法律事務所に関するご案内はこちら▶事務所紹介