1 はじめに
交通事故の示談交渉では、整骨院の施術費について争われることがあります。以下では、整骨院の施術費用が認められるための基準について説明していきます。
2 裁判における整骨院の施術費用の判断基準
整骨院の施術費用は、①~④を総合的に判断することになると言われています。
①施術の必要性・有効性
②施術内容の合理性
③施術期間の相当性
④施術単価の相当性
3 施術の必要性・有効性
1 医師の同意
医師の指示・同意があることは、施術の必要性・有効性が認められることを強くうかがわせる事情とされています。
なお、相手保険会社の担当者が整骨院に通院することに同意していたとしても、それを医師の同意と同視することはできません。
例えば、大阪高判令和3年5月18日(自動車保険ジャーナル2119号掲載)では、保険会社の承諾は被害者の便宜のために損害賠償債務が確定する前に整骨院へ支払う施術費用を立て替えて支払うことを承諾したものにすぎない、と判断しています。
2 必要性
東京地判令和3年7月14日は、接骨院での施術の必要性が問題となった事案でした。次のとおり判断しています。
「・・・A病院のE医師は、B接骨院における消炎鎮痛措置を継続した上で投薬により経過を観察する診療方針を取ったことからすれば、A病院受診前の施術を含めてB接骨院における施術について相当な治療期間である同日までの施術の必要性を認めることができる。」
3 有効性
裁判例では、症状が施術後に軽減しているなど一定の治療効果が出ていることが施術証明書上明らかであれば、施術の有効性があったと判断される傾向にあります。
例えば、文書送付嘱託で取り寄せた施術証明書に「荷重時の痛みも消失」と記載されていたとすれば、施術の有効性が認められるでしょう。
4 施術内容の合理性
1 一般論
整形外科では診断されていない部位が施術されていた場合、施術内容の合理性が問題となります。例えば、整形外科の診断は頸椎捻挫のみであったにもかかわらず、整骨院では頸椎と腰椎に2部位の施術が行われていた場合です。
2 東京地判令和3年7月14日
被害者は、当初痛みを訴えていたのは5部位で、治療などにより4部位については痛みが消失していました。ところが、被害者は、接骨院において、痛みが消失した部位についても施術を受けていました。また、事故後も続けていた空手による身体の痛みのケアとして接骨院で施術を受けていました。
裁判所は、痛みが消失した部位の施術については施術内容に合理性がなかったと述べ、施術費の範囲を実際に要した施術費の5割に限定しました。
具体的には、「・・・原告は同年6月7日には、頚部痛及び右下腿部痛は消失しており、同月28日ころまでには右下肢の痺れも消失し、同年7月19日には右股関節部痛が症状の主たるものとなっていたにもかかわらず、B接骨院において5部位にわたる施術を受けて」いることなどを考慮し、施術費用の範囲を限定しました。
6 施術期間の相当性
1 一般論
例えば、軽度の打撲、捻挫の診断で、整骨院に毎日のように通院していたような場合、施術期間の相当性が問題となります。
2 東京地判令和3年7月14日
前掲裁判例は、「・・・その頻度も本件事故翌日から7月19日までの68日間のうち30回というほぼ2日に1回の頻度である。」ことを考慮し、施術費用の範囲を限定しました。