1 はじめに
相続人の一人は、相続開始後、遺産分割がなされるまでの間、遺産を処分したとします。改正前の民法ではこのような場合の規律は定めらていませんでしたが、改正法では新たな規定(民法第906条の2)が設けられることになりました。そこで、以下ではこの規定について説明していきます。
2 民法第906条の2
1 906条2第1項
906条の2第1項は、「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。」としています。
このように、相続人の一人が相続開始後遺産分割前に遺産を処分した場合、処分行為をした相続人を含む相続人全員が処分した遺産に含めることを同意した場合、その処分された遺産は、遺産分割の対象財産に含まれることになります。
2 906条の2第2項
906条の2第2項は、「前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。」としています。
このように、相続人の一人が相続開始後遺産分割前に遺産を処分した場合、処分行為をした相続人が処分した遺産に含めることを同意しなかったとしても、他の相続人が全員同意した場合、その処分された遺産は遺産分割の対象財産に含まれることになります。
3 具体例
例えば、被相続人A、その妻B、長男C、次男Dがいたとします。Dが、遺産総額4000万円のうち1000万円をAの死後に処分したとします。
この場合、相続開始後、遺産分割前の遺産は3000万円となります。そして、B、C(つまりD以外)が1000万円を遺産の含めることに同意した場合、遺産分割の対象は4000万円となります。
そうすると、
B:4000万円×2分の1=2000万円
C:4000万円×4分の1=1000万円
D:同上
となります。
そして、Dは、自ら処分した1000万円を取得したことになります。
3 改正がなされた経緯
遺産分割とは、相続時に存在し、かつ遺産分割時にも存在する相続財産を分割する手続になります。
そのため、相続開始後、遺産分割前に処分された相続財産は、相続人全員の同意がない限り、遺産分割の対象とはなりません。
そうすると、処分行為を行った相続人の同意がない場合、他の相続人は、当該相続人に対し、不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をしなければなりません。これは、余りにも迂遠であり、他の相続人の権利救済の観点からは問題といえます。
そこで、改正法では、処分行為を行った相続人以外の相続人全員が逸失した相続財産を遺産分割の対象とすることに同意した場合、当該相続財産を遺産とみなすことにしました。
4 処分者の認定
民法906条の2が適用されるためには、「処分」をした者が特定されることが必要となります。
この点、「処分」をした者が証拠上認定できて、その者が認めている場合や、認めていなくても他の相続人が処分された遺産を分割対象の遺産とすることに同意していた場合は問題ありません。
これに対し、「処分」をした者の認定が証拠上困難な場合、遺産分割の前提問題となります。すなわち、他の相続人は処分者とされる相続人に対し、準共有持分の侵害を理由として不当利得返還請求(民法703条)が不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることになります。
5 最後に
遺産分割について一般的なことは関連記事をご参照ください。
【関連記事】
✔遺産分割一般について解説記事はこちら▶遺産分割