1 特別寄与料の支払請求権が認められた経緯
1 原則
寄与分が認められるためには、特別の寄与をした者が「共同相続人」であることが必要となります(民法904条の2第1項)。そうすると、夫の妻が義理の父を在宅介護していた場合、夫の妻には寄与分は認められないことになります。
2 履行補助者論とその限界
そこで、裁判例(例えば東京高決平成22年9月13日)は、夫の妻は相続人(夫)の履行補助者として相続財産の維持に貢献したとして、寄与分を認めていました(以下「履行補助者論」といいます。)。
✔相続人の妻による療養看護と寄与分に関する裁判例の解説記事はこちら▶コラム:相続人の妻による療養看護と寄与分
もっとも、履行補助者論は、相続人(夫)が存命であることが前提となります。そのため、夫が義理の父よりも先に亡くなり、かつ夫婦間に子がいなかった場合、履行補助者論は使えません。
3 他の救済手段とその限界
そうだとしても、夫の妻は、特別縁故者に対する相続財産分与の制度(民法958条の2)によって、生前の労苦が報われる可能性があります。しかし、同制度は、相続人が不存在であることが前提なので、ハードルが厳しいと思われます。
また、被相続人と夫の妻との間で準委任契約があったとして、夫の妻が報酬を受け取ることができる、という考え方もあります。しかし、親族間では契約書を交わすことなど通常ないので、準委任契約の成立の立証ハードルは高いといえます。
さらに、夫の妻に事務管理による費用償還請求を認める考え方もあります。これは法定債権なので、準委任契約よりも立証のハードルは低いものの、償還の範囲が有益費に限られるので、不十分といえます。
4 まとめ
以上、判例法理や現行法の規律では、夫の妻の生前の労苦が報われない可能性があったため、平成30年改正法では、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」には、特別寄与料の支払請求権が認められるとしました(民法第1050条1項)。
2 特別寄与者の範囲
「被相続人の親族」とされています(民法第1050条1項)。したがって、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族に限定されています(民法725条)。
3 実体的要件
まず、「療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」といえなければいけません(民法第1050条1項)。
また、上記寄与は「無償」で行われた必要があります(同上)。
以上の要件該当性については、遺産分割における寄与分の議論が参考になります。
✔療養看護型の寄与分についての解説記事はこちら▶コラム:療養看護の寄与分
4 権利行使手続
1 協議又は処分の請求
特別寄与料の支払請求は、「当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。」とされています(民法第1050条2項)。
2 期間制限
特別寄与料の支払請求は、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月」以内、「相続開始の時から1年」以内にしなければなりません(民法第1050条第2項但書)。
期間制限を設けなければ相続人の地位が不安定となるので短期の期間制限を設ける必要があること、特別寄与料請求者は相続開始の事実を知ることができるので短期の請求期限を設けたとしても酷でないこと、他方で相続人の存在を把握できない場合にまで起算するのは酷であることから、法は、起算点について相続の開始だけでなく相続人を知った時としたのです。
なお、「相続人を知った時」とは「当該相続人に対する特別寄与料の請求が可能な程度に相続人を知った時」とされています(静岡家庭裁判所令和3年7月26日)。
3 管轄など
特別寄与者と相続人との間で協議できない場合、特別寄与者は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります(調停前置)。事件名は「相続人らに対する特別の寄与に関する処分調停事件」となります。
管轄は、相続開始の地を管轄する家庭裁判所となります(家事事件手続法216条の2)。
なお、寄与分は遺産分割調停が係属していなければ申し立てることができませんが、特別寄与料の調停は遺産分割調停が係属していなくても申し立てることが可能です。
5 その他
各相続人は特別寄与料の額に当該法定相続人の相続分を乗じた額を負担することになります(民法第1050条5項)。
例えば、義理の父の相続人が夫を含め3人おり、特別寄与料が1000万円だとします。この場合、妻は、相続人2名に対し、それぞれ500万円ずつ請求することになります。
