1 はじめに
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与料の支払請求をすることができます(民法第1050条5項)。
以下では、特別寄与料の支払請求について概要を説明していきます。
2 制度趣旨
夫の妻が義理の父を在宅介護していた場合が特別寄与料の典型例とされています。
夫が存命中、義理の父が亡くなれば、夫の妻の療養看護の労は夫の相続分の中で寄与分(民法904条の2)として評価されることになります(詳細は関連記事をご参照ください)。
ところが、夫が義理の父よりも先に亡くなり、夫婦間に子がいなかった場合はどうでしょうか。夫の妻は、義理の父の相続人ではないので、義理の父が妻に遺贈などしていないければ、その遺産を一切取得することはできません。
そこで、夫の妻は、特別縁故者の規定や、準委任契約、事務管理、不当利得の規定に基づき相続人に対し寄与分を請求することも考えられます。もっとも、要件や立証などのハードルは高いと思われます。
しかし、夫の妻の生前の労苦が正当に報われることが公平といえます。そこで、改正法では、相続人以外の親族による特別寄与料請求の規定が設けられることになりました。
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✔相続人の妻による療養看護と寄与分に関する裁判例の解説記事はこちら▶コラム:相続人の妻による療養看護と寄与分
3 特別寄与料の要件
1 請求権者
相続人以外の親族に限定されています。
2 その他の要件
遺産分割における寄与分の議論が参考になります。
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✔療養看護型の寄与分についての解説記事はこちら▶コラム:療養看護の寄与分
4 権利行使について
1 相続人が複数いる場合
各相続人は特別寄与料の額に当該法定相続人の相続分を乗じた額を負担することになります(民法第1050条5項)。
例えば、義理の父の相続人が夫を含め3人おり、特別寄与料が1000万円だとします。この場合、妻は、相続人2名に対し、それぞれ500万円ずつ請求することになります。
2 期間制限
特別寄与料の請求は、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月」以内、「相続開始の時から1年」以内にしなければなりません(民法第1050条第2項但書)。
期間制限を設けなければ相続人の地位が不安定となるので短期の期間制限を設ける必要があること、特別寄与料請求者は相続開始の事実を知ることができるので短期の請求期限を設けたとしても酷でないこと、他方で相続人の存在を把握できない場合にまで起算するのは酷であることから、法は、起算点について相続の開始だけでなく相続人を知った時としたのです。
なお、「相続人を知った時」とは「当該相続人に対する特別寄与料の請求が可能な程度に相続人を知った時」とされています(静岡家庭裁判所令和3年7月26日)。
5 特別寄与料の実現方法
特別寄与者と相続人との間で協議できない場合、特別寄与者は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります(調停前置)。
管轄は、相続開始の地を管轄する家庭裁判所、事件名は「相続人らに対する特別の寄与に関する処分調停事件」となります。
なお、寄与分は遺産分割調停が係属していなければ申し立てることができませんが、特別寄与料の調停は遺産分割調停が係属していなくても申し立てることが可能です。