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コラム:所有権留保車両の修理費と評価損の請求権者

2024.01.21
1 はじめに

所有権留保特約付き売買により自動車を購入した場合、車検証では、所有者がローン会社(売主)、使用者が買主となっています。

では、ローンで購入した自動車が交通事故により損傷した場合、売主、買主のいずれが加害者に対して損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

以下、修理費用と評価損について説明していきます。

 

2 修理費用
1 はじめに

結論として、買主は、修理費用の支払いを行っている限り、加害者に対し修理費の請求をすることができるとされています。理由について裁判例によって異なります。以下、2つの裁判例を紹介します。

 

2 東京地判平成15年3月12日

裁判例では、買主は車両の利用権侵害を理由に修理費用相当額の賠償を求めることができるとされています。

「自動車が代金完済まで売主等にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において、その代金の完済前に自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき、第三者に対して自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは、不法行為時において自動車の所有権を有していた売主であって、買主ではないと解される。しかし、買主は、条件成就によって所有権を取得する期待権を有するとともに、当該車両の利用権を有するのであり、毀滅に至らない程度の損傷を受けた場合は、買主ないしはその意思に基づいて使用する者が、その利用権を侵害されたことを理由として、実際に支出したか、あるいは支出を予定する修理費の賠償を求めることができると解すべきである。」

 

3 東京地判平成26年11月25日

買主は、車両損壊により車両の排他的占有・使用権限が害されていること、車両の担保価値を維持する義務を負っていることから、修理費用相当額の賠償請求ができるとしています。

「まず、被控訴人は所有権留保車両の使用者であるところ、留保所有権は担保権の性質を有し、所有者は車両の交換価値を把握するにとどまるから、使用者は、所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り、所有者による車両の占有、使用権限を排除して自ら車両を占有、使用することができる。使用者はこのような固有の権利を有し、車両が損壊されれば、前記の排他的占有、使用権限が害される上、所有者に対し、車両の修理・保守を行い、担保価値を維持する義務を負っている。したがって、所有権留保車両の損壊は、使用者に対する不法行為に該当し、使用者は加害者に対し、物理的損傷を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができる。その請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない。」

 

3 評価損
1 代金完済後

買主が、代金を完済していれば、評価損を請求できます(札幌高判令和4年2月4日、自動車保険ジャーナル2121号掲載)。

 

2 代金完済前

評価損は交換価値の低下を損害とするので、評価損を請求できるのは所有者である売主とされています。前掲裁判例(札幌高判令和4年2月4日)も次のとおり述べています。

評価損は、車両の交換価値の低下であり、車両の所有者に生じるものであるところ、前認定のとおり、X3は、本件事故当時、被害車両の所有者ではないし、その後代金が完済されたと認めるに足りる証拠もないから、被害車両に評価損が生じているか否かを検討するまでもなく、X3が評価損を請求することはできない。」

もっとも、買主(使用者)が売主から評価損の損害について損害賠償請求権の譲渡を受けた場合、買主は評価損の請求をすることができます。例えば、名古屋地判令和3年12月24日は、次のとおり述べています。

「そして、証拠(甲7)によれば、Y2車両の所有者であるF株式会社(甲4)は、本件事故1によりY2車両に生じた損害賠償請求権(評価損を含む。)が同車両の使用者である原告X1にあることを承認していることが認められ、前記アの評価損は原告X1の損害と認められる。」

このように、買主(使用者)が代金完済前に評価損の損害賠償請求をするためには、ローン会社(所有者)との間で債権譲渡契約を交わすことになります。具体的な内容としては「原告車についての本件事故の評価損の損害賠償請求権が甲会社にあると判断される場合、甲会社は、原告に対し、同損害賠償請求権を譲渡する。」が考えられます。

【関連記事】

✔評価損についての解説記事はこちら▶コラム:評価損の請求

 

4 最後に

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