1 はじめに
夫婦が不仲となり、夫が自身名義で住宅ローンを組んで購入したマイホームを出て、別にアパートを借りて暮らすことになったとします。
この場合、妻は夫に対して婚姻費用分担請求をすることができます。
これに対し、夫は、妻と子はマイホームで引き続き暮らしており、その分、住宅費用の支払いを免れているので、算定表に基づき算出された婚姻用の額から住宅ローン相当額を全額控除するべきである、と主張することがあります。
このような夫の主張が認められるかについて説明していきます。
2 住宅ローンは全額控除されない
先の例では、たしかに妻側は住居費の支払いを免れており、他方で、夫側は住宅費に加えて自身が住居費を二重に負担することになるので、算定表に基づき算出された金額から相当額を控除するべきと思われます。
他方で、住宅ローンの支払いは資産形成の側面もあるので、算定表により算出された金額から住宅ローン全額を控除することは相当ではありません。
そこで、裁判例では、算定表に基づき算出された金額から住宅ローン相当額を全額控除することは認められておらず、一定額を控除するにとどまるとされています。
例えば、東京家裁平成27年8月13日審判(判例タイムズ1431号248頁)は以下のとおり判示しています。
「・・このような場合、申立人は自らの住居関係費の負担を免れる一方、相手方は自らの住居関係費とともに申立人世帯の住居関係費を二重に支払っていることになるから、婚姻費用の算定に当たって住宅ローンを考慮する必要がある。もっとも、住宅ローンの支払は、資産形成の側面を有しているから、相手方の住宅ローンの支払額全額を婚姻費用の分担額から控除するのは、生活保持義務よりも資産形成を優先させる結果となるから相当でない。そこで、当事者双方の収入や住宅ローンの支払額、相手方の現在居住している住居の家賃の額や家計調査年報の当事者双方の総収入に対応する住居関係費の額などの一切の事情を考慮し、本件では、次のとおりの金額を婚姻費用の分担額から控除するのが相当である。」
実務の多数説は、権利者の収入に対応する住居関係費の限度で控除する考え方になります。
例えば、年収200万円未満の住宅関係費の平均額は2万2247円となっているので、権利者の年収が120万円の場合、算定表の婚姻費用から2万2000円程を控除することになります。そのため、仮に義務者側が月8万円の住宅ローンを支払っていた場合、義務者は実質的には住宅ローンとして5万8000円程を支払うことになります。
3 最後に
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