1 はじめに
修理費用として認められる範囲は必要かつ相当な範囲に限定されています。そのため、塗装は部分塗装が原則であり、これを超える部分の塗装費用は事故と相当因果関係を欠くとされています。もっとも特段の事情がある場合は全塗装の費用を損害として認める裁判例もあります。そこで以下では全塗装を否定した裁判例、肯定した裁判例を説明します。
2 否定例
東京地判平成7年2月14日では、以下の判示のとおり、購入後2年経過し既に色あせていたこと、全塗装の場合は部分塗装よりも2倍の費用がかかることを考慮し、「過大な費用をかけて原告車に原状回復以上の利益を得させることになることが明らか」としました。
「右のような多少の光沢の差が生じるのは、原告車が購入後二年近くを経過して、既に色褪せ等が生じていたためであることや、全塗装する場合に要する費用は、原告車の損傷のひどい後部の部分塗装の場合に要する費用の二倍以上にもなることなどの事情も併せて考慮すれば、本件において、原告車の全塗装を認めるのは、過大な費用をかけて原告車に原状回復以上の利益を得させることになることが明らかであり、修理方法として著しく妥当性を欠くものといわざるをえないから、部分塗装を前提とした修理費用をもって本件事故と相当因果関係にある損害というべきである。」とされています。
3 肯定例
1 神戸地判平成13年3月21日
この裁判例は、事故車両が高級車であったところ、機能的には部分塗装で足りるとしても、部分塗装の場合は事故車両であることが一目瞭然となり価値が低下することを考慮し、全塗装費用を損害と認めました。
「原告は、本件車両はメルセデスベンツ五〇〇SLのオープンカーであり、塗装修理については特殊塗装のため破損箇所だけの部分塗装では色合わせが困難なことから、全塗装が必要となる旨主張し、被告は、本件事故による被害車両の損傷部位は前面部分のみであることに鑑みれば、部分塗装で足り、これを超える部分の塗装費用は本件事故と相当因果関係を欠くものである旨主張する。」
「本件車両がメルセデスベンツ五〇〇SLのオープンカーであり、ベンツの中でも特に高級車であるといわれているものであることは前記認定のとおりである。証拠(乙四、五、一一、一六の1・2、証人C)及び弁論の全趣旨によれば、本件車両は、特殊塗装のため破損箇所だけの部分塗装では色合わせが困難であり、機能的には部分塗装で十分であるとしても、部分塗装であれば部分塗装したこと、すなわち事故車であることが時とともに一目瞭然となり、車両価値がそれだけ低下することが認められるから、全塗装が必要であると認めるのが相当である。」
2 東京地裁平成元年7月11日
バッテリー液が事故車両(ポルシェ928S4)に広範囲に飛散したことから車体保護のため全塗装を選択したことは合理性があるとして、その費用全額を損害として認めました。
「(1)で認定した事実によれば、本件事故によってバッテリー液か本件自動車の広範囲な部位にわたって飛散し、バッテリー液による塗装と下地の腐食を防ぐために補修塗装の必要かあったにもかかわらず、どの範囲でバッテリー液が飛散したのか明確でなかったというのであるから、原告が、車体の保護等のため本件自動車に対する修理方法として全塗装を選択したことには合理性があるものというべきであり、原告が全塗装に要した費用五四万八〇〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害というベきである。」
4 最後に
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