1 はじめに
例えば、追突事故に遭った被害者が、相手方の任意保険会社の一括対応の下、自由診療(例えば1点あたり25円)で医療機関に通院していたとします。ところが、交渉が決裂して訴訟へ移行したとたん、加害者は、被害者は健康保険(1点10円)を使った場合となんら変わらない診療を受けているにすぎないとし、相当な治療費は診療報酬単価を1点10円として引き直し計算するべきだと主張するケースもありえます。
医療機関に対して支払った医療費が高額であったと認定され、減額された金額が相当が医療費と認定された場合、その減額分は賠償を受けられないので、結果として被害者が負担することになります。
そこで、以下では、この論点が問題となった横浜地判令和3年7月19日を紹介します。
2 横浜地判令和3年7月19日
1 一般論
「交通事故治療は、少なくない医療機関において現在も自由診療が行われているという現状があり、そのことを踏まえると、高度な医療行為を要するなど自由診療が必要となる事情がない中で、診療報酬単価が特に高額であったり、治療行為が過剰、濃密であったりして、その治療費が不相当に高額になっており、公平の観点からその全額を加害者に負担させることが不合理といえるような場合に限って、相当な範囲で治療費等の引き直し計算をすべきであり、診療報酬単価が1点10円を超えているとしても、直ちに引き直し計算をする必要はないと解される。」
2 あてはめ
「本件では、Cクリニック及びDクリニックのMRI検査費用(甲3、4)と、薬代(甲5。ただし、平成30年12月までの健康保険不適用分)は、1点単価20円で算定されているが、これは、健康保険法の診療保険体系における1点単価10円の2倍を超えるものではなく、不相当に高額とはいえないので、引き直し計算をせず、請求にかかる金額をそのまま本件事故による損害と認めるべきである。」
「他方、B外科での治療費(甲2。ただし、平成30年12月までの健康保険不適用分)は、1点単価25円で算定されており、これは、健康保険法の診療保険体系における1点単価10円の2倍を超えるものであって、高度な医療行為が行われたというわけではない中での不相当に高額な治療費とみざるを得ないから、同診療保険体系における1点単価10円の2倍にあたる1点単価20円に引き直した金額の範囲で、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるべきである。」
このように、自由診療の場合、1点単価が20円を超えてくると、治療費の一部が事故と相当因果関係が認められないとされます。
3 最後に
以上、高額診療に関する裁判例を紹介しました。交通事故の場合に健康保険を使って治療を受けられることについては関連記事をご参照ください。
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