1 はじめに
交通事故事案に限らず被害者が第三者に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するに際し、弁護士を代理人に選任して訴訟追行させた場合、弁護士費用として相当額を加害者に対し請求することができます。
2 最高裁判例
最判昭和44年2月27日は次のとおり判示し、不法行為に基づく損害賠償請求について、相当額の弁護士費用が損害に含まれるとしています。
「思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
交通事故訴訟の場合、認容額の1割が弁護士費用として認められるのが一般的です。
3 被害者請求と弁護士費用
1 はじめに
交通事故の場合、被害者が自賠責保険に対し被害者請求をせずに訴訟提起した場合、弁護士費用算定に際し被害者請求相当額を除外するかが問題となります。以下、2つの裁判例を紹介します。いずれも否定的な見解を採っています。
2 東京地判平成26年7月16日(後遺障害事案)
「本件事案の内容に鑑み、原告が被害者請求で支払を受けることができた後遺障害等級表12級の自賠責保険金224万円の約10%に相当する22万円を控除すべきであるとの被告の主張は採用できない。」
3 京都地判令和4年6月16日(死亡事案)
「自賠責保険を請求することは、権利であって義務ではないし、加害者側が弁護士費用や遅延損害金の発生を回避するには、支払義務の発生が見込まれる損害額の全部又は一部を弁済し又は弁済供託する方法があることを踏まえると、被害者又はその相続人が自賠責保険の被害者請求をしなかったことが弁護士費用の損害の発生を妨げる事情になるとは解されない」(自動車保険ジャーナル2132号掲載)。